2014年9月16日火曜日

第十七幕 マネーボール

「マネー・ボール」は米大リーグ・オークランドアスレチックスとゼネラル・マネージャー(GM)、ビリー・ビーンの奮闘を描いた映画。ブラッド・ピット主演。

マネー・ボールの原作は、同名のノンフィクション。全米でベストセラーとなり、邦訳も人気を集めました。

なぜか。
野球を統計のスポーツとしてとらえた点が、ビジネスマンにも支持されたのでしょう。
アスレチックスには有名選手を獲得できる潤沢な資金がありません。いわば中小企業です。ならば、お金をかけずにチームを強化しなければなりません。そこで採用したのが「セイバーメトりクス」という理論。ウィキペディアの定義によると

過去の野球に関する膨大なデータの回帰分析から「得点期待値」というものを設定して、これを上げるための要素を持つ選手を良い選手とする。
これだけではチンプンカンプン。そこで本書で紹介されている戦略の一例をご紹介します。
たとえば、アスレチックスは「選球眼」のよい選手を優先的に獲得しています。これは安打や本塁打が出なくとも、3つの塁が埋まればそれだけ得点期待値が高まるからです。
一方で、犠打は相手チームにアウトを進呈することになるので重視されません。同じように盗塁も走者が刺殺される可能性があるので評価されません。
アスレチックスが獲得するのは、他球団が見向きもしない選手ばかり。
重要なのは選球眼のよさであって、体格や走力は二の次。そういった選手はサラリーが安く抑えられます。資金力のないアスレチックスにとっては理にかなった戦略なのです。

もう一点、マネー・ボールを魅力的にしているのがビーンGMの破天荒さ。
統計を駆使してアスレチックスを率いてきたとはいえ、彼の人間像は緻密さとはかけ離れています。
映画で印象的なのが「Is loosing fun?」とロッカールームで選手に訴えかけるシーン。この後、ビーンGMは怒りにまかせてバットを放り投げます。それだけならまだしも、試合に負けた腹立ちから、窓ガラスに向かって物を投げつけるシーンも。

ビーンはもともと、将来を嘱望された選手でした。ところが大成しませんでした。
その切れやすい、むらっけのある性格が災いしたのでした。
引退後に球団のフロントに移ってからも、彼はことあるごとに怒りをぶちまけます。


彼は自らの意見や感情をオブラートに包むようなことはしません。
見込みのない選手には、はっきりと役立たずの烙印を焼き付けます。一方で、獲得した選手たちには、その利用価値をストレートに説明します。

アスレチックスは選球眼に優れた選手を獲得するだけでなく、ベテラン選手も多く獲得しています。
彼らベテランは、好条件で契約してくれる球団はなかなかありません。選手としての寿命が長くないからです。

一方でアスレチックスにとっては逆にチャンス。実績のある選手を格安の年棒で抱えることができるのです。かつてはヤンキースを退団した松井秀喜も、一年契約でアスレチックスに入団したことがあります。映画の中でビーンは、獲得したベテラン選手、元ブレーブスのデービッド・ジャスティスにこう告げます。
最後の一滴をしぼりとる、と。

ビーンにとって選手は商品でしかありません。派手なホームランはなくても、四球さえ選べればいい。また、安く獲得した選手が活躍すれば、今度は高い値段で他球団に売りつけます。
監督すら将棋の駒、どころかお飾りと同じです。原作ではGMの指示に背いた監督を解任する場面が描かれています。

それでも、ビーンとアスレチックスからは不思議とビジネスライクでドライな感じを受けません。
きっと彼が挫折を経験してきたからでしょう。

実際問題、貧乏球団のアスレチックスは、常識的な戦術では金満球団に太刀打ちできません。一方で、どん底から這い上がろうとする選手に私情を挟んだところで、なんの助けにもなりません。
ビーンが経済合理性にしたがってチームの強化を進めるのも、ほかに選択肢がないからです。

映画のラストで、ビーンはレッドソックスから誘い受けます。
名門レッドソックスも、最近はセイバーメトりクスを取り入れているとか。資金力ではアスレチックスを大きくしのいでおり、移籍すれば望むとおりの補強戦術を駆使できたことでしょう。
しかし、彼は誘いを断り、貧乏球団アスレチックスのGM職にとどまるのです。

知恵と情熱で、強者に勝つ。それが彼の生き方なのかもしれません。
そんなビーンの反骨心が、マネー・ボールに深みを与えているのでしょう。

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