2014年10月2日木曜日

第二十四幕 アメリカン・ハッスル

「アメリカン・ハッスル」は2013年のアメリカ映画。デビッド・O・ラッセル監督。クリスチャン・ベイル主演。

副題は「奴らは生き抜くためにウソをつく-」。
そう、詐欺師を描いた映画です。冒頭から、作品に引き込まれます。
いわくありげな男女三人が「まあまあ」と、ジュラルミンケースの札束を中年男性に渡そうとする。「なんだこれは」と男性は受け取りを拒む。政治ドラマにありがちな賄賂のやりとりです。

アメリカン・ハッスルは、1970年代に実際にあったアメリカの収賄事件「アブスキャム事件」を題材にしています。とはいえ、映画はシリアスというよりはコミカルな印象。登場人物たちの風貌が奇抜なせいでしょう。



クリスチャン・ベール演じる主人公の詐欺師アービンは、下腹が突き出て薄毛の中年親父。
ヒロインで詐欺師の片腕のシドニー(エイミー・アダムス)は、胸元が大胆に開いたドレス。
そして、FBIの刑事リッチー(ブラッドレー・クーパー)はパンチパーマ。
当時流行のファッションだったとはいえ、それぞれがキャラクターを作りこんでいます。

実話が題材とはいえ、ストーリーもかなりぶっ飛んでいます。
実際の事件では、収賄によって現職の上院、下院議員7人、ニュージャージー州のカムデン市長らが逮捕されました。

実はこの収賄自体が、FBIによって仕組まれたもの。
まず、アブドゥール・エンタープライズという中東の企業をでっちあげ、政治家たちに架空の融資話を持ちかけさせる。その融資を餌にして、カムデン市で持ち上がっていたカジノ誘致の利権に群がる政治家たちを一網打尽にしてしまうという「おとり捜査」でした。

政治家側にもともと臭い材料があったとはいえ、捜査機関が犯罪を演出したようなもの。
これだけでも驚きですが、さらに驚かされるのが、捜査に詐欺師が協力していたこと。それがアービンのモデルとなったワインバーグという人物でした。「協力」といえば聞こえはいいのですが、実際には詐欺師が捜査を主導したようなものです。

ワインバーグ=アービンは、表の顔はクリーニング店の経営者。
裏では、美術品の贋作の取引をはじめ、多重債務者に架空融資を持ちかけ高額の手数料を巻き上げるという詐欺を働いていました。その悪事はFBIの知るところとなり、詐欺の片腕だったシドニーが逮捕されてしまいます。一方のアービンは逮捕をまぬかれるかわりに、刑事リッチーからおとり捜査への協力を求められるのです。

リッチーがアービンに示した免罪の条件は、身代わりの詐欺師を4人突き出すというもの。
しかし野心家のリッチーは詐欺師のような小物を逮捕するだけでは気がすみません。
ターゲットは市長と議員に格上げされます。
実話と同様、「シーク」という架空の中東の投資家をでっち上げ、政治家に融資話を持ちかけるのです。実際には、これらのシナリオはワインバークの発案だったそう。詐欺師が捜査に協力したというよりは、主導したといったほうが近いのでしょう。

詐欺師のアービンは、デブで薄毛という風貌もあいまって、どこか憎めないキャラクター。
冷血漢ではなく、政治家を陥れるわな作りに必死。はめるために近づいた市長とも親しくなってしまい、彼をだますことに良心の呵責も感じるようになります。

一方のリッチーも切れ者の刑事ではなく、どこにでもいる若者というイメージ。
こちらもパンチパーマという風貌がソフトイメージに一役買っているのでしょう。野心が異常に強い半面、危うさも同居しています。出世のためとはいえ、FBIへの要求はどんどんエスカレートしていきます。200万ドルの架空融資金をはじめ、高級ホテルをフロアごと抑えろだの、ジェット機を用意しろだの。巨額の公金支出をしぶる上司に殴りかかるという「事件」まで起こすのです。



対照的に本物かと見まがうほどの存在感は、マフィア役のロバート・デ・ニーロ。
カジノ業の表も裏も知り尽くした彼は、「シーク」と面会するなりアラビア語で語りかけます。居合わせたアービン、リッチーは凍りついてしまいます。FBIの捜査官が変装した「シーク」は、メキシコ系のアメリカ人。アラビアンとは程遠い風貌。もちろん言葉も分かりません。

さて、事件の結末やいかに。

結局、リッチーの計画は筋書き通りにはなりません。それどころか、アービンに一杯食わされることになります。そのアービンも市長を裏切ったという負い目を抱えて生きることになります。

また登場人物それぞれの愛情関係も最後までもつれ合ったまま。
リッチーは逮捕したシドニーに思いを寄せますが、彼女が選んだのは詐欺師アービンでした。
一方のアービンは年若き妻ロザリン(ジェニファー・ローレンス)と幼い息子との生活に執着しますが、ロザリンはマフィアと一緒になってしまいます。

誰もが望んだ結果を得ることのないラスト。

映画で展開されてきたスリルとコメディは、強烈な苦味を残します。



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